FC2ブログ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
原文

大納言殿参りたまひて、書のことなど奏したまふに、例の、夜いたく更けぬれば、御前なる人々、一人二人づつ失せて、御屏 風・御几帳の後ろなどに、皆隠れ臥しぬれば、ただ一人、眠たきを念じて候ふに、「丑四つ。」と奏すなり。「明けはべりぬなり。」と独りごつを、大納言殿、「いまさらに、な大殿籠りおはしましそ。」とて、寝べきものとも思いたらぬを、うたて、何しにさ申しつらむと思へど、また人のあらばこそは紛れも臥さめ。上の御前の、柱に寄りかからせたまひて、少し眠らせたまふを、「かれ、見たてまつらせたまへ。今は明けぬるに、かう大殿籠るべきかは。」と申させたまへば、「げに。」など、宮の御前にも笑ひきこえさせたまふも知らせたまはぬほどに、長女が童の、鶏を捕らへ持て来て、「朝に里へ持て行かむ。」と言ひて隠しおきたりける、いかがしけむ、犬見つけて追ひければ、廊の間木に逃げ入りて、恐ろしう鳴きののしるに、皆人起きなどしぬなり。上もうちおどろかせたまひて、「いかでありつる鶏ぞ。」など尋ねさせたまふに、大納言殿の、「声明王の眠りをおどろかす。」といふ言を、高ううち出たしたまへる、めでたうをかしきに、ただ人の眠たかりつる目もいと大きになりぬ。「いみじき折の言かな。」と、上も宮も興ぜさせたまふ。なほ、かかることこそめでたけれ。

現代語訳

大納言殿(伊周)が参上なさって、漢詩文ことなどを帝に申し上げなさるうちに、いつものように、夜がたいそう更けてしまったので、御前に控える女房たちが、一人二人といなくなって、御扉風や御几帳の後ろなどに、みんな隠れて寝てしまったので、私はたった一人、眠たいのを我慢してお仕えしていると、「丑四つ。」と、時刻を帝に申し上げるのが聞こえる。「夜が明けてしまうようです。」と独り言を言うと、大納言殿が、私に「いまさらお休みなさいますな。」と言って、私を当然寝るものとお思いになっていないので、嫌だわ、私はどうしてそのように申し上げたのだろうかと思うけれども、別の女房がいるならばそれに紛れて寝てしまおう、しかし起きているのが私一人なのでそれもできない。帝が、柱に寄りかかりなさって、少しお眠りになっているのを、「あれを、拝見なさいませ。今はもう、夜が明けてしまうのに、このようにお休みになってよいのでしょうか。」と大納言殿が中宮様に申し上げなさると、「本当に。」などと、中宮様もお笑い申し上げなさるのも、帝はお分かりにならないでいるうちに、長女が使う童女が、鶏を捕まえて持って来て、「明日の朝に実家へ持って行こう。」と言って隠して置いたのを、どうしたのだろうか、犬が見つけて追いかけたので、廊の長押の上の棚に逃げ込んで、恐ろしく鳴き騒ぐので、寝ていたほかの女房たちが起きなどしてしまったようだ。帝もお目覚めになって、「どうして鶏がいたのか。」などとお尋ねになると、大納言殿が、「声が明王の眠りを覚まさせる。」という漢詩を、大きな声で吟唱なさったのが、すばらしく趣深いので、わたしのような普通の人の眠たかった目もたいそう大きくなった。「すばらしく状況に適った言葉だなあ。」と、帝も中宮様もおもしろがりなさる。やはり、このようなことはすばらしい。
スポンサーサイト
Secret

TrackBackURL
→http://okdmasahiro.blog.fc2.com/tb.php/50-37d3fa3e
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。